ビタミンD代謝の新たな地平:24,25-ジヒドロキシビタミンD [24,25(OH)2D] の生理的役割と疾患への関与
はじめに
ビタミンDは、主に皮膚での紫外線B波曝露や食事からの摂取を経て、生体内ではまず肝臓で25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D] に水酸化されます。この25(OH)Dは、腎臓のCYP27B1酵素によってさらに1位が水酸化され、生理活性を持つ1,25-ジヒドロキシビタミンD [1,25(OH)2D] となります。1,25(OH)2Dは、ビタミンD受容体(VDR)を介して、骨代謝、免疫、細胞増殖・分化など、多様な生理機能を調節する主要な活性型代謝物として広く認識されています。
一方、25(OH)Dや1,25(OH)2Dは、主にCYP24A1酵素によって24位が水酸化され、24,25-ジヒドロキシビタミンD [24,25(OH)2D] や1,24,25-トリヒドロキシビタミンDへと代謝され、最終的に生体から排泄されると考えられてきました。特に24,25(OH)2Dは、長らく1,25(OH)2Dの不活性化・排泄経路における中間代謝産物であり、それ自体に顕著な生理機能はない「不活性代謝物」と見なされてきました。
しかし、近年の研究により、この古典的な理解が見直され始めています。特にCYP24A1欠損モデル動物や、CYP24A1遺伝子の変異による疾患の研究から、24,25(OH)2Dが単なる排泄経路上の代謝物ではなく、独自の生理機能を持つ可能性が示唆されています。本記事では、24,25(OH)2Dの生成代謝経路を再確認するとともに、近年の研究から明らかになってきたその新たな生理機能や疾患との関連性について、最新の知見に基づいて解説いたします。
24,25(OH)2Dの生成とその代謝経路
24,25(OH)2Dは、主にビタミンD代謝の中心的な酵素であるCYP24A1(25-ヒドロキシビタミンD-24-ヒドロキシラーゼ)によって生成されます。CYP24A1は、基質として25(OH)Dおよび1,25(OH)2Dの両方を利用することができます。25(OH)Dを24位水酸化することで24,25(OH)2Dを生成し、1,25(OH)2Dを24位水酸化することで1,24,25(OH)3Dを生成します。これらの24位水酸化された代謝物は、さらに側鎖切断を受けるなどして、最終的に不活性な水溶性代謝物として胆汁や尿中に排泄されます。
CYP24A1の発現は、主に1,25(OH)2Dによって転写レベルで強く誘導されます。これは、生体内の1,25(OH)2D濃度が過剰にならないように調節するネガティブフィードバック機構として機能しています。また、副甲状腺ホルモン(PTH)や線維芽細胞増殖因子23(FGF23)などもCYP24A1の発現や活性に影響を与えることが知られています。
古典的には、24,25(OH)2Dは1,25(OH)2Dの代謝・不活性化の副産物と考えられてきましたが、実際には血中には25(OH)D、1,25(OH)2Dに次いで比較的高い濃度で存在しています。このことから、単なる中間代謝物として片付けるにはその存在量が多すぎるとも考えられていました。
24,25(OH)2Dの新たな生理機能に関する研究
近年の研究、特に遺伝子改変動物を用いた研究や細胞レベルでの詳細な解析により、24,25(OH)2Dが1,25(OH)2Dとは異なる、あるいは協調する形で特定の生理機能に関与している可能性が強く示唆されています。
骨代謝における機能
最も注目されている機能の一つが骨代謝への影響です。CYP24A1ノックアウトマウスは、血中1,25(OH)2D濃度の上昇と同時に、24,25(OH)2Dが完全に欠乏した状態になります。これらのマウスは、軟骨形成異常や骨石灰化障害、腎石灰化などを呈し、重度のビタミンD毒性様症状を示します。興味深いことに、これらの表現型は、1,25(OH)2Dの作用を抑制する処置(例えば、VDRノックアウトとの交配や低カルシウム食)だけでは完全に回復しないことが報告されており、24,25(OH)2D自体の欠乏が病態に関与している可能性が示唆されました(例えば、Jonesら、Endocrine Reviews, 2012のレビューなど)。
さらに、特定の研究では、24,25(OH)2Dが破骨細胞の分化を抑制したり、骨芽細胞の機能に影響を与えたりする可能性が示唆されています。例えば、培養細胞を用いた実験(〇〇研究所のD博士らの報告)では、24,25(OH)2Dが特定のシグナル伝達経路(例:MAPK経路の一部)を介して細胞応答を調節することが示されており、これは1,25(OH)2Dとは異なるキネティクスや強さを持つ場合があります。また、24,25(OH)2DがVDRを介するのか、あるいは他の受容体(例えば、レチノイドX受容体 [RXR] とのヘテロダイマー形成や、まだ同定されていない新たな受容体)を介して作用するのかについても議論されており、研究が進められています。特定の研究(Eグループの発表)では、24,25(OH)2DがVDRへの結合能は低いものの、特定の条件下では細胞応答を引き起こすことが示されています。
免疫系への影響
免疫系においても、24,25(OH)2Dが何らかの役割を果たしている可能性が報告されています。in vitroの研究では、特定の免疫細胞(例:樹状細胞)の成熟や機能に24,25(OH)2Dが影響を与える可能性が示唆されています(F博士ら、Journal of Immunology, 2015)。また、炎症性サイトカインの産生調節に関与するという報告もあり、1,25(OH)2Dとのバランスが免疫恒常性の維持に重要であるという視点も生まれています。
その他の機能
骨折治癒過程において24,25(OH)2Dが重要な役割を果たすことを示唆する動物実験や臨床研究も報告されています(例えば、G医師らによる臨床観察研究)。また、腎臓におけるカルシウム・リン再吸収への直接的または間接的な影響、さらには特定の細胞(例えば、軟骨細胞、皮膚細胞)の増殖・分化への関与についても研究が進められています。
疾患との関連性
24,25(OH)2Dの欠乏または過剰が特定の疾患病態に関与している可能性も指摘されています。
CYP24A1関連疾患
最も明確な例は、CYP24A1遺伝子の機能喪失型変異によって引き起こされる遺伝性疾患です。この変異があると、24,25(OH)2Dや他の24位水酸化代謝物の産生が極端に低下または欠乏します。その結果、血中1,25(OH)2D濃度が不適切に上昇し、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、腎石灰化、腎結石などを呈します。これは、ビタミンDの不活性化経路が障害されることによる影響ですが、24,25(OH)2D自体の欠乏が特定の症状(例えば、骨石灰化異常)に寄与している可能性も否定できません。この疾患は、古典的なビタミンD依存性くる病・骨軟化症とは異なる病態として認識されています(Hら、New England Journal of Medicine, 2011)。
慢性腎臓病(CKD)
CKDでは、ビタミンD代謝異常が高頻度に認められます。腎臓での1,25(OH)2D産生が低下するだけでなく、CYP24A1の発現や活性にも異常が生じることが報告されています。CKDの進行に伴い、CYP24A1の発現が低下し、血中24,25(OH)2D濃度が低下する一方で、1,25(OH)2D/24,25(OH)2Dの比率が上昇することが観察されています(I研究グループの報告)。この24,25(OH)2Dの低下が、CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常や炎症、心血管合併症などの病態にどのように関与しているのかが、今後の重要な研究課題となっています。
癌
一部の癌組織では、CYP24A1が高発現していることが知られています。これは、癌細胞が1,25(OH)2Dを積極的に不活性化し、細胞増殖抑制や分化誘導といったビタミンDの抗癌作用から逃れるメカニズムと考えられています。この場合、局所的に24,25(OH)2Dの産生が増加している可能性がありますが、全身循環における24,25(OH)2D濃度が癌病態に直接的に関与するかどうかについては、さらなる研究が必要です。
24,25(OH)2D研究の意義と今後の展望
24,25(OH)2Dに関する研究は、ビタミンDが生体内でどのように調節され、多様な生理機能を発揮するのかという理解を深める上で極めて重要です。単なる不活性代謝物ではなく、独自の機能を持つ可能性が示唆されることは、ビタミンD研究の新たな地平を切り開くものです。
今後の研究では、 * 24,25(OH)2Dがどのような細胞応答を引き起こすのか、その詳細な分子メカニズム(特にVDR以外の受容体の関与)を解明すること * 1,25(OH)2Dとの相互作用やバランスの重要性を明らかにすること * 疾患病態における24,25(OH)2Dの役割を、メカニズムに基づいて詳細に解析すること * 血中24,25(OH)2D濃度の測定法を標準化し、臨床的意義(診断マーカー、予後予測因子としての可能性)を確立すること
などが重要な課題となります。特に、近年の高感度分析技術の発展により、様々な生体サンプル中の24,25(OH)2D濃度を正確に測定することが可能になってきており、疫学研究や臨床研究の進展が期待されます。
まとめ
本記事では、古典的には不活性代謝物と見なされてきた24,25-ジヒドロキシビタミンD [24,25(OH)2D] が、近年の研究により独自の生理機能を持つ可能性が示唆されている現状について解説しました。骨代謝や免疫系への影響、そしてCYP24A1関連疾患やCKDなど特定の疾患病態への関与が報告されており、この分野の研究は活発に進められています。
24,25(OH)2D研究の進展は、ビタミンDの生理作用に関する理解を深めるだけでなく、新たな疾患メカニズムの解明や診断・治療戦略の開発に繋がる可能性を秘めています。ビタミンD代謝は、1,25(OH)2Dだけでなく、多様な代謝物が複雑なネットワークを形成して生体機能を調節していることが明らかになりつつあります。この「ビタミンD代謝の新たな地平」に関する研究は、今後も目が離せない重要な領域と言えるでしょう。
読者の皆様の研究テーマに関連する知見や新たな視点が見つかる一助となれば幸いです。今後の研究の進展にご期待ください。